気泡


 
まばたきをするたびに右目にだけモナリザの残像みたいなものがうつる。
と、ぬるい青島ビールを飲みながら告白した男は私服警官で、開襟シャツの胸元からガムテープがちらりと見える。素肌に発信器を貼っているのだ。
「いつからわずらっておられるのですか」
「わずらわしく思ってなどいません」
病気をわずらうという表現がうまく伝わらなかったようだ。
「いつから、見えるのですか、その残像は」
「さあ。信仰にかかわることだからね」
ああ。ひょっとしたら。モナリザと聖母マリアを混同しているのではないか。それは単なる混同でもあり、美術史的なひとつの見解でもある。
プラスチック製の白いテーブルと椅子。あしもとを通り過ぎてゆくたくさんの茶色いにわとり。何羽かは息絶え、ほかのにわとりに踏まれている。
「ひとくちください」
わたしがビールをねだると、彼は発信器をはぎとってガムテープごとわたしの口に詰めた。
ねばついて、甘ったるくて、すぐにやわらかく溶ける。

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