高級な自転車

森さんの家の一階は車庫になっていてコンクリート打ちっぱなしである。安藤忠雄的なものが好きな森さんのことだから、その上の居住空間もコンクリート打ちっぱなしなのであろう。スーツをきちんと着た若い男性が出て来て兄はそろそろ帰るはずですと言う。森さんはわたしより十ほど上、森さんと弟さんはずいぶん年齢が離れているのだ。丁寧に言葉を選びながら弟さんと話していると、森さんが高級な自転車に乗って帰宅。あんなに攻撃的だったひとが、皮肉ひとつ言わず、ひたすらおだやかににこやかに応対してくれる。年月はひとを変える。ふと足元を見ると、森さんの弟は鉢植えの隅で両手をひろげる小人の置物になっているから、ひとが変わるのに年月は関係ないのかもしれない。

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