タイマン句会W杯2019プレイバック #taiman_kukai


古本斑猫軒店主ミコシさん

得点表をチェックするミコシさん。(窓の外を台風17号が通過中)

今年8月15日から9月6日にかけて「ラグビー」として行われたタイマン句会ワールドカップ2019
石原率いるトルコは2度目の優勝。
昨年に引き続き古本斑猫軒店主ミコシさんをお招きし、全句の中から気になった句を3句(+α)挙げていただき感想を伺いました。

※最後にプレゼントのお知らせがあります。せっかちさんは一気にスクロールだ!(後で遡って全部読んでね!)

<今日ピザ取っちゃおうか! って夜学ならば実際ありそう>

教室にピザ届きたる夜学かな  波平(イングランド)
8/23 予選B3 題「ピザ」

石 原 対戦相手は米光一成さん、題は「ピザ」「台風」の試合ですね。学校でピザの出前を取ってみたいというのはみんな一度は考えることかと思うんですよね。発想としてはありふれているかもなー、と思ったんですが。
ミコシ 夜学はここでは「夜間学校」として取ったんですが、夜学っていう季語が持っているその奥深さというか、ここに集まる人たちがなにかしら事情を抱えている感じ、というのがこの句を強くしているんですよね。発想自体が多少安直ではあっても夜学っていう季語の強さがある。ちょっと叙情的にすぎるって言えなくもないんだけど。見えてくる景としては教室の中にカメラがあるんじゃなくて校舎の外から教室の窓の光が見えてる。一歩引いたところでちょっとざわざわした声も聞こえてくるっていうふうな客観的な景を想像してみるとなかなか味わいがあります。季語の力をよく活かした句です。
石 原 たしかにそう言われてみると、教室に出前を取ることは発想としてみんな考えるけどなかなか実行はしないだろうと思うんですよね。でも夜学と言われることによって「それなら実際あるかもしれない」という説得力が生まれてますね。
ミコシ そうそう。単純に教育だけする場じゃなくて、そこにいろいろな事情を抱えた人が集まっている場として、教室を一歩出ればみんなそれぞれ生活はあるんだけど、ここにいるときだけ仲間というか。「じゃあ、今日ピザみんなで取っちゃおうか」っていうそういう情景が見えてくる。自分としては珍しく叙情に傾いたものをとったなって思うんですけど。年を取ったのかな。
石 原 去年から一年間で年を……。
ミコシ そういうものにちょっと弱くなったというかね。秋の句はそもそも得意じゃなかったんです、僕。
石 原 秋って「叙情(ジョジョーッ)!!!」って感じしますもんね。
ミコシ 作るのも人の句を見るのもあんまり得意じゃなかったんだけど。今回の大会一通り見てたら攻めた句が多かったじゃないですか。その中でしっとりした句があるとぐっとくることがあるんですよね。たとえば……ちょっと試合単位の話になってもいいですか。
石 原 お願いします!

<叙情が炸裂したプールA第4試合>

ミコシ ここに至るまでに他の試合で一通り遊んだ句がいっぱい出てるんですよ。タイマン句会ならではというか。そういう句に票が集まっていた傾向もあって。ひとしきりお祭りとして騒いでたんですけど、そこに来てプールA第4試合では陰翳のある句が集まった感じ。急にひっそりとしたというか。この試合自体がすごくよかった。大会の流れがここで転換したかな、という気もしてるんですよね。

冷やかに倒れたままの屏風かな  鶴谷香央理(クロアチア)
とどこおりなくすべらかや秋の虹  鶴谷香央理(クロアチア)
秋冷や今日をかかえて終電車  ひろこ(スペイン)
星月夜ぼくをとがめぬスフィンクス  ひろこ(スペイン)

8/26 予選A4 題「冷やか」「くすという音を入れる」

石 原 この試合の中でベストを一句選ぶとしたらどれですか?
ミコシ うーん。どれもいいんだけど「とどこおりなくすべらかや秋の虹」がいいかな。ほかもいいんだけど敢えて取るならば。この句の向こう側に「とどこおりなくないもの」があるのを感じるんですよね。すべらかな秋の虹は自分の心の投影ではなくて、むしろこちら側には何かとどこおりが、ささくれ立ってるものがあるんだけど、それに対して秋の虹はとどこおりなくすべらか。その一種のさびしさみたいな。その奥行きがよかった。「とどこおりなくすべらかや」までを仮名にひらいたことで視覚的にもとどこおりなくすべらかになってますね。
石 原 得点としては4点しか入ってないけど、もっと入ってもよかったような。
ミコシ 他の句も全部良かったっていうのもありますよね。

<ひらがなの「おしらせ」に凝縮された不穏さ>

政府からおしらせの来る秋の暮  亀山鯖男(モンテネグロ)
9/5 3位決定戦 題「政」

ミコシ モンテネグロの句は好きな句が多いんですけど、たとえば最高得点の「三人のこどもをふくむすすき原」とか「東京のにせの渚のさくら貝」とか、母音子音の反復と仮名にひらくやり方をすごく意識した句ですよね。

三人のこどもをふくむすすき原  亀山鯖男(モンテネグロ)
sannin no kodomo o fukumu susukihara

ミコシ お、お、お、お、お、う、う、う、う、う、と母音を反復して、さらにそこを全部ひらがなにしたことで「音」感を強めてる。

東京のにせの渚のさくら貝  亀山鯖男(モンテネグロ)
tokyo no nise no nagisa no sakuragai

こちらはn音とs音。これも効果的にひらがなを使ってきてる。

一方で、

具有する舌もちよりて鶴来る  亀山鯖男(モンテネグロ)

では、「具有」っていうワードのチョイスによって現実感のなさ、不思議な感じを出してくる。
石 原 「両性具有」以外で「具有」って言葉使った記憶がないです。
ミコシ そうそう。敢えてこうすることでちょっと変な感じを出してくる。言葉に対する感覚がよく出た句がいいんですよね。
で、今回選んだ「政府からおしらせの来る秋の暮」はそういうところを前面には出してないんですけど、技巧的な部分も踏まえた上でちょっと抑制させてきた。「おしらせ」をひらがなにしたところにこのセンスが集約してるんですよ。ひらがなで一見やさしくしたところでかえって不穏さが出てくる。不穏なものってこういう顔をして近寄ってくる、日常ってこうやって壊れるんだなっていう。『となり町戦争』のかんじですよね、小説の。
石 原 『となり町戦争』ってなんですか。
ミコシ 三崎亜記の小説で回覧板か町内の掲示板か何かで「隣町と戦争が始まります」って始まるんです。そういう日常の何気ないことですよね。この句でも言ってることは「政府からおしらせが来たんだ」っていう。なんか、ほかの句に見せる技巧的な部分をぎゅーっとちっちゃく固く凝縮していってこの「おしらせ」に込めたことで、一見なんでもないことを言っているようで空気がただことじゃなくなってるっていう。言葉のうわべ以上の何かがある感じがしてる。そういう意味でちょっと見捨ててはおけないな、ということでとりました。
だって、鯖男さんのほかのおもしろい句はここで取り上げなくてもみんなおもしろいでしょ? ってことなんですよね。実際得点高いし。
石 原 (いまさりげなくすごいほめ方したな……?)あと季語のチョイスなんですけど「秋の暮」って付けるとなんでも俳句になっちゃうようなところがあるから、敢えて「秋の暮」って使ってるのはだいぶ意図を感じます。この句は一筋縄ではいかない句ですよっていうのを宣言するための「秋の暮」みたいなイメージ。
ミコシ なるほど。サラッと読むなよ、みたいなね。

<あざとくかわいく猿またぎ>

一匹の桃へ小猿の飛びかかる  登りびと(モンゴル)
9/3 準決勝2 題「桃」

石 原 さて、それでは問題の「猿またぎ」。(注:突然命名された新しい修辞法。詳しくはtogetterをご覧ください。
ミコシ 猿またぎ。……これ、どうします?
石 原 これ、桃を擬人化というか擬動物化して一匹って言っちゃったのかなって、最初思って。
ミコシ そういう取り方もできますよね。いくつか取れるんですよ。twitterでほかのひとの評を見てても「一匹(の猿)が持ってる桃」と取っているひともいれば「桃自体を(擬動物的に)一匹と数えた」と取ったひともいるし、単純に語順が入れ替わってて「一匹の小猿が桃へ飛びかかった」と取ったひともいる。いろいろ取りようはあるんですけど、どう取るのが面白いのかな。
僕は擬人化として取るのはあまり考えなかったんですけど「一匹が持ってる桃」「一匹の小猿が桃へ飛びかかった」っていうふたつの解釈のどちらにしても言葉がちょっと飛んでるんですよね。ジャンプしてる。これが小猿の飛びかかる躍動感や不規則性に合っていて、確信犯的にやったのかたまたまなのかちょっとわからないんですけど、かわいらしくて動きのある元気な句になっていますよね。
あとは、まあ、桃好きじゃないですか、みんな。我々は。
石 原 ええ。笑
ミコシ 岡山っていうのもあるし、西東三鬼(岡山出身)も桃好きだし。
石 原 「夜の桃」とかね。桃が嫌いな人類はいないし猿も桃大好き。(※桃太郎県に在住する個人の意見であり桃嫌いや桃アレルギーの方への配慮を欠いた発言ですが文化人類学的価値を考慮し原文のまま掲載しています)
ミコシ 桃と小猿を組み合わせてくるのあざといとも言えますよね。どっちもかわいいから。
石 原 かわいいですよね。ほわほわしてますよね。毛が。桃の産毛と小猿の毛がほわほわほわほわ。
ミコシ そうですね。毛尽くしの句だなあ。言葉足らずなところがかえって効果が出ちゃってて……
石 原 それが「猿またぎ」という手法ですね。
ミコシ そう。反則ギリギリと言われた「猿またぎ」。猿またぎを効果的に使うっていうのは字余りを効果的に使うとかと通じるものなんですけど。
石 原 猿またぎを使っている句の事例をいくつか探さないといけないかもしれないですね。
ミコシ ああ、過去の句の中から。ありそうありそう。
石 原 先行作品の中からこの句は「猿またぎ」を使っていると言えるのではないか、という句を見つけた方はtwitterからご連絡いただければ幸いです。
ミコシ(あ、自分で探さないんだ……?)

石 原 本日は台風の中お越しいただきありがとうございました。
ミコシ こちらこそ。お疲れ様でした。
石 原 ミコシさんのお店古本斑猫軒からのお知らせなどがありましたら一言どうぞ!
ミコシ 最近、当店オリジナルの缶バッジを作りまして。ハンミョウのロゴをあしらった青色バージョンと、本棚モチーフの白色バージョンの2種類。
当店サイトから本をご注文いただく際、備考欄に「缶バッジください(青or白)」的なことを書き添えていただければオマケとして1つ同封いたします。

斑猫軒缶バッジ

石 原 おっ。夏の季語としておなじみ(のわりにあまり遭遇しない)ハンミョウ! こんな虫だったのか……。
ミコシ さて。それでは最後にあれをやりましょうか
石 原 ええ。そろそろ風も強くなってきましたし。

ゲッツ!

ゲッツ!

もう一回ゲッツ!

もう一回ゲッツ!

渾身のゲッツ野分へ身を反らす  登りびと(モンゴル)
8/29 A5 題「芸人しばり」

2019年9月22日(日)岡山市内にて対談