かばん6月号を読んでます(1)


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特集「酵母と桜」に寄稿させていただいた『かばん』2016年6月号から気になった短歌を。

いつもよりちょっと悪い子になる薬 ルームサービスのきつねうどんは  うにがわえりも

「いつもよりちょっと悪い子になる薬」までなら昭和の、ちょっとエロい歌詞をカマトトな態度で歌うタイプのアイドルソングみたいな言葉選び。「ルームサービスの」で、ふむふむ、実際の薬物じゃなくて比喩なのね、シャンパンかなフルーツかな、と思わせたところに「きつねうどん」でうっちゃりをかけるセンスに痺れた。なかなかこの流れで「きつねうどん」は出てこないですよ。「ルームサービスのきつねうどん」というとラブホテルの小窓から差し入れてドンと置き去りにされる、伸び切った、あるいは部分的に凍ったままの絶望的なきつねうどんしか思い浮かばないのだが、どうやったらそんなもので悪い子になれるのか。悪い子ってどういうのが悪い子なの。物事の捉え方のおかしい感じ、状況のわからなさが逆にいい。

履歴書の四角いところ三センチくらいの笑顔だけ貼りつける  藤島優実

「履歴書の写真貼付欄に三センチくらいの笑顔の写真を貼りつけた」ということではなく「履歴書に写真を貼るみたいに(うわべだけの)笑顔を作ってみせた」ということなのでしょう。普段「四角いところ」と言うときに長細い形ではなく真四角に近いものを指して言ってるんだなということに気づかされる。就職活動を想起させるんだけど、魂までは売り渡してない、と同時にその場に器用に順応することもできてないような。

祖母が遺していった薄手のシャツのなかでまだペイズリー柄が動いています  小坂井大輔

そうなんだよね。ペイズリー柄って動くんだよ。うちのもわりと動く。

<黒王子>。<白王子>との関係と見なしてしまう。「腐ってやがる」。  ミカヅキカゲリ

※「関係」に「カップル」とルビ
言わずと知れたことですが「腐ってやがる」は『風の谷のナウシカ』に出てくる台詞で、ネットスラングとしては「腐女子/腐男子」に対しても使われる言葉。「腐ってやがる」は説明的に思えてしまうけど、「黒王子」と聞いたら黒王子×白王子という構図を自動的に妄想してしまうことに関しては共感せずにはいられない。

モザイクの向こう側にはあるだろう図鑑に載っていない性器が  谷川電話

「図鑑に載っていない」がすごい。モザイクの向こう側の性器を想像することはあっても、そこに「図鑑」というものを持って来れるなんて。「モザイクの向こう側」の「性器」は性的な欲望を向けられるものとしてあるはずなのに、「図鑑」によって「性器」が虫や魚や植物みたいなものと並べられて、性欲から少し遠ざかる。(逆に、現実に図鑑に載っている動植物は性器そのものと言えるのではないか、とも考えてしまう。)性器に関して、図鑑に載っていない虫を追い求めるようなまっすぐな探究心を向けるひとというのを想像するとちょっとおかしい。

猫だけが入れる扉のからんころんこの世ですこしかみさまに流行る  柳本々々

壁の下の方に設置された小さな猫ドア。神様が猫ドア鑑賞をしてるんじゃなくて、猫ドアを出入りしてると考えた方が面白い。多神教だとしたら「あの、猫用のやついいっすよ」「まじ? いつも適当に壁抜けてたわ」「いやあ、あのからんころんが最高なんすよ。つぎ人間界行くときぜひ。猫の背中に乗ったまま通るのがまた良くて〜」みたいな神様同士の口コミがで流行が広がったはずだ。一神教の神様のマイブームを「流行る」と言っているのだとしてもそれはそれでかわいい。ところで猫ドアって「からんころん」って音がするんでしょうか。製品によっては鳴るのかな。「からんころんこの世」という連なりが心地よい。

薔薇食めば薔薇に骨あり骨吐けば銀河宇宙や食はさびしゑ  睦月都

あー! 彗星の尻尾で魂を洗われるような耽美感! きもちいい!
薔薇の骨は魚の骨みたいな骨なんだろうか、それとも獣の骨みたいな骨なんだろうか。どちらかというと獣の小骨っぽいような気がする。宇野亜喜良の絵柄で脳内でアニメーションにしました。「食はさびしゑ」って、食べ物らしいもの食べてないのにそれを「食」と呼んでいる、この、霞食って生きてる感じ大好き。「ゑ」がね、これ自体が口から出てきそうな字ですよね、ペッてしたとき。