天使かよ! 山田耕司『不純』は非常によいBLだからぜひ読んでみてほしい


※BLが好きでなおかつ俳句にもちょっと興味がある方向けの記事です。俳句が好きでBLにもちょっと興味がある方にもお楽しみいただけるかと思います。能村登四郎沼の歩き方続・能村登四郎沼の歩き方も併せてどうぞ。

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友人Mによると最近の石油王は受が主流(注1)なのだそうです。

向日葵よ目隠しは本当に要らないんだな  山田耕司『不純』

これはMさんが石油王受に認定した句です。
尋ねられている方が石油王ということですね。ほほう…。

目隠しをするシチュエーションとしてわたしが最初に思い浮かべるのは処刑ですが、「本当に」なんて念を押して質問している(=コミュニケーションが成立している)ことで緊迫感は弱まりどことなく間の抜けた性愛の場面のようにも思えます。
よしんば、
「目隠しなんかいるか。さっさと殺せ」
「おいおい。お前はそうやっていつも俺の親切心を踏みにじるんだ。せっかく用意してやったのに。本当にいらないんだな?」
という処刑の場面だったとしても、いや……むしろ完全にBLですね。(注2)

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能村登四郎を耽美的な翳りを帯びたJUNEとするならば、山田耕司さんの俳句はBL的な明るさとユーモアに溢れています。ちょっと極端な例を比べてみますが、

夏痩せて少年のゐる樹下を過ぐ  能村登四郎
鷹の眼をもつ若者とひとつ湯に

といった感じで年嵩の男から若者を眩しく見がち(ベニスに死すか!)な能村登四郎に対して、山田耕司は、

春それは麦わらを挿す穴ではない  山田耕司
つむじ嗅ぐ理由など知らず卒業期
泣く人に海鼠を見せてをりました
みつ豆の叱る側だけ泣きながら

こんなふうに同年代の男の子ふたり(年齢の近い先輩後輩?)のじゃれあいっぽい句が目立ちます。
もうちょっと引用するからとりあえず読んでみて。(以下引用はすべて山田耕司『不純』より)

濡らさるるこの奥ゆきをところてん
名月や背をなぞりゆく人の鼻
重陽の嗅ぎつくしてもなほ二人
乳首など要らぬといふを鳥わたる
耳咬むに至らず会釈春隣
妙な声出すまで春の泥うがつ

どうだ。
読んでるこっちが妙な声出ちゃうだろう。

とくに「ところてん」は直截的すぎてどう受け止めていいかわからない。(注3)

もうこれだけで『不純』が男×男として読むことで輝きを増す句が多い句集っぽいぞ! というのは十分にお察しいただけるかと思いますが、『不純』の面白い点は「そもそもこのひとたちは人間なのか」という疑問がわいてくるところです。わたしは男同士が好きだから男同士だと思って読んでるけど、性別以前の問題として、ヒトだと思っていいんだっけ、という。
というのも、まるで自分の肉体を珍しがるような句がたくさんあって、

たんぽぽに穴ある顔を寄する吹く
顔に穴があるのは当たり前では……?

鼻のあなに舌はとどかずヒヤシンス
試した。うん。それ試したよ子供の頃。

いきんでも羽根は出ぬなり潮干狩
それは試したことないな。むしろなぜ出ると思った?

河童忌を吐かずにゐられなくて息
吸って吸って吸って止めてたん?

囀りやくちびるもまた穴のふち
いろんな穴にいろんなふちがあるよね!

眼の球はぬれつつ裸ふきのたう
なぜそんな純真な目で下ネタに寄せるんだ。

豆の花おのが耳穴は覗けず
ってかお前、穴が好きだな。

つちふるやたて線上のここは臍
お外ではお臍しまってもらっていいかな?

座布団は全裸に狭しほととぎす
着て!

突っ込みを入れながら読んでしまいますが、この(ヒトの肉体を珍しがるような一言)+(季語)の組み合わせ、めちゃくちゃぐっときませんか。おかしなことを言っているというのに、季語との組み合わせが絶妙でピュアな透明感ときらめきが溢れてしまう

自分の肉体を不思議がるのは人間の肉体を得てから日が浅いひとの感覚ではないかと思います。子供とか、天使をやめて人間になったとか。そういう意味では推しが人間界に暮らすことになった天使や悪魔という方や、モノや概念(鉄道・武器・国 etc…)の擬人化ジャンルを愛する方ならなおさら楽しめる句集かもしれない。(注4)

山田耕司句集『不純』が気になったら、ぜひ週刊俳句の下記の回を読んでみてください。

第594号 2018年9月9日
佐藤文香プロデュース
特集 山田耕司句集『不純』を読む

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(注1)その後調べたところ石油王受のサンプル数が少なかったため石油王受が主流とまでは言い切れないとの訂正が入りました。「私の好みというバイアスがかかっていましたことをここにお詫びします」友人M談。
(注2)当方光属性のため、このあとの展開は「クソッ。サプライズが台無しだ」と言いながら目隠しを床に投げつけてポケットから指輪を出したところで処刑されかかった方のひとに「ふざけんな」って蹴り飛ばされるといいと思います。
(注3)竿に触らずに菊門の刺激だけで腎水が出ちゃう方のところてんを想像せずにはいられない! と識者の間では有名。
(注4)俳句の本を読むとき、「イメソン」的なものとして「イメ俳」を探すと楽しいです。