演技について
 
出演者は、志村役の真砂豪さんをのぞくと映画の経験はなかったんでしょうが、みんな、いい顔をしている。何度見ても、まったく飽きない。編集の過程のなかで、みんな、よくやってくれたなと感心しました。
前半、ぼくの演出はたぶん急ぎすぎていました。ぼくだけでなく、スタッフもなにかつかめていない。そういうなかで、ちゃんとセリフを言って動いてくれた。感謝しています。
やりながら、決まったゴールをあたえてしまわない演出がいいという考え方を学んでいったんだけど、どうだったかな。「ヨーイ、スタート」の声に力が入りすぎて圧迫したこともあったんじゃないかと反省しています。
 
西脇裕美さんは、智子からみづきの役に変わって、大変だったと思いますが、そこからぼくと相談しながら、西脇さんのみづきを少しずつ作っていった。彼女の素直さとじっくり考える力がいいかたちで発揮された。最後に、みづきがもうひとりのみづきと話をするという場面がありますが、そこまで「夢のなかで、いろんな娘になっとる」ということで、いろんな姿で登場する。いろんなみづきがいる。そういうふうに編集したので、西脇さんの魅力が多面的に出ていると思うけど、それでバラバラにならないような、体のなかに芯がしっかりとあるという動き方ができている。そこがとてもよかった。
 
家ノ上美春さんは、演技はしなくていいというようなことを、ぼくがなにかと言うんで、やりにくかったと思う。三月のオーディションのときに直感したように、お姉さん的にしっかりしていて、いいものをたくさん持っている。それをカメラの前でどう出すかということですね。脚本にもいくつか意見を出してくれ、それでさゆりの役がリアルになった。発声が安定しています。編集に入ってあらためてそれをありがたいと思いました。
 
石原ユキオさんは、俳句の書き手・朗読者としてもすごいけれど、女優としても天才的かもしれません。打ち合わせの時間が十分にないのに、明日ここをやりますという感じで頼むと、ちゃんとやってくれた。もちろん、期待して頼んでるんだけど、いつも、なぜこんなにできちゃうんだろうと驚いてしまうほどでした。石原さんは、一人二役。彼女について語りすぎると、いまはまだ秘密にしておきたいことをばらすことになってしまうかな。
 
家ノ上さんと石原さんは、それぞれ、もっと出番があってよかった。普通ならそうじゃないといけないところを、この作品の語り方は破綻を逆に活かすという方向を選んでいるので、なんとかごまかしちゃった感じで、ごめんなさいというところがあります。
西脇さんを二人が援護するかたちで、厚みができた。それがなければ、「生きる。傷つく。誘惑する。」と「岡山ドリームガールズ」のキャッチフレーズは考えられませんでした。