2009.2.17〜2.24.

2月17日(火)
二日酔い気味。
佐藤忠男さんの『私はなぜアジア映画を見つづけるか』を、
書評を書くために読む。
『岡山の娘』に肩入れしてくれた、ししらいぞうさんの
ブログ「調節作用」を見ていたら、
佐藤さんは映画批評家の「遺物」のひとりにされていた。
そんな感じもないわけではないが、
佐藤さんは、いろんなところに行って、
わたしたちが簡単には見ることができない映画をたくさん見ている。
そして、彼の書くものには、
映画批評を書きはじめた1950年代後半の
若い「思想」や「自由」が、独特の穏やかさをもって、
生きつづけている、と信じたい。
戦後まもない時期のその映画体験が、
映画がまだ若い状態にある国々の、
未知の作品との出会いを呼びよせている、
という筋をいちおう考えた。

2月18日(水)
横浜、幻野映画事務所(弟のところ)へ。
『岡山の娘』の英語字幕版づくり。
14〜16日と二泊三日でやったあとのつづき。
今日も泊まりで、遅くまでやったが、まだ終わらない。
マックのファイナルカットを使って、
かなり簡単に出来ると思っていたが、
英語字幕を入れたカットを約800枚重ねてゆくという作業で、
しかも英語の表現そのものにもまだ迷うところがあるので、
時間がかかる。
日本語で字幕を出しているところに
どう英語を入れるかという課題もある。
中川財務相、辞任にいたるまでのニュース。
「嘘をついている」「ごまかそうとしている」
「しまったと思っている」「もういいやと投げやりになっている」
というような顔と挙動はこういうものか、と演出の勉強をする。

2月19日(木)
横浜から大学へ。
教授会。
その前に小さな会議と小さな仕事。
午後8時すぎに国立に戻り、「奏」に寄る。
フミちゃんとリーちゃんに挟まれて、ワインを飲む。
外は、雨になっていた。

2月20日(金)
毎年のことだが、この時期、決断力が鈍る。
そういう体になっている。
それなのに、決断しなくてはならないことが、この時期は多い。
そうだったのだと気づかされる。
『私はなぜアジア映画を見つづけるか』の書評(770字)を片付けて、
栗田有起の「しろとりどり」(「新潮」2007年12月号)を読む。
豆腐工場で働くヒロイン。
なにもかもを白くして生きている。
職場に親しい女性がふたりいる。おもしろかった。

クリント・イーストウッド監督『チェンジリング』を立川で見る。
実話。なんともすごい話だ。
1920〜30年代風のきついメイクのアンジェリーナ・ジョリーの顔を
ローキーの暗い画調のなかにおいただけで、
勝負はつけているという感じ。
その上に、いろんな小技が効いている。
立川から南武線で谷保にまわって、「たちばな」へ。
タラの白子の天ぷら。はじめて食べた。

2月21日(土)
朝から、福間塾のための詩を書く。課題は「塀」。
「塀」でまず思い浮かぶのは、府中刑務所の塀だ。
わたしの半分は、塀のなかで規則正しい生活をしていて、
あとの半分が、ここにいて、なにかしている。
そういうアイディアにしがみついて、なんとか書き上げるが、
パソコンの調子がおかしくなって原稿が刷り出せない。
がっかりし、なぜか一瞬、暗い気持ちになる。
大げさに言うと、どうも、パソコンに苦しめられるたびに、
この世界のあり方、自分の生き方に対して、
なにかが根本的にまちがっているという気がしてくるのだ。
いつも3時間以上つづく福間塾、
最初の2時間だけつきあって、吉祥寺へ。
いせや本店での、桃ノ忌(会田綱雄忌)。
池井昌樹さんがやっている会で、今年は第十九回である。

2月22日(日)
幻野映画事務所。午前10時前に着くと、
原將人監督が来ていた。
5分の短篇をハードディスクからHDVに落とす作業で、
ハードディスクのコードを忘れた(京都に!)とかで、
手こずっていた。待っているうちに
横浜女子駅伝がはじまってしまった。

午後1時から、京急の井土ヶ谷駅近くの喫茶店で、
英語字幕の協力者、安井マイケルさんと、
字幕の英語について、最終的なチェックをする。
実際に画面に付けてゆくなかで
やっぱりどうなのかと迷い出した箇所について、
彼の意見を求めた。
なんとか意味が通じるようにしたいのと、
もうひとつ、英語でも詩を感じさせたいという希望がある。
たとえば、北川透さんが語った「弱い心」。
weak heart では、「(健康的に問題のある)弱い心臓」。
soft heart では、「優しい心」になる。
heart は、あきらめて、delicate soul とすることにした。
安井マイケルさんは、首都大学東京の同僚。
若いときに詩集を出していて、映画も作っている。
願ってもない協力者だ。
午後3時前に戻って、午後10時すぎまで字幕入れをする。

2月23日(月)
午後6時すぎ、字幕入れの作業を終える。
パソコンの画面の、分割された画像、
そのなかの文字を見つめる作業。
これを、二泊三日、一日、一泊二日と、合計6日間やった。
わたしも(決断力の鈍さもあって)疲れたが、
弟はもっと大変だったと思う。
もう少し直すところも出てくるだろうが、
いちおうできたので、ほっとする。
午後8時45分、帰宅。
NHKニュース。『おくりびと』の
アカデミー外国語映画賞受賞を大々的に報じていて、
滝田監督のお父さんが富山で大喜びしている画像もあった。

2月24日(火)
きのうも寒かったが、きょうも寒い。
きのう、横浜から帰る満員電車で読みはじめた
ジョゼフ・マクブライドの『Hawks on Hawks』を読む。
ハワード・ホークス監督のインタビュー。
前に一度読んでいるが、読みだしたらやめられなくなった。
どんなことにも深刻になる必要はない。
いいシーンが撮れそうになければ、
できるだけ速くそれを片付けるか、棄てるかして、次に進む。
楽しむこと。楽しさを引き出すこと。
登場人物それぞれを「人間」にすること。
ホークスの作品もそうだが、その言葉を読んでいるだけで、
半端な「ウツ」は吹っ飛んでしまう。
明日から3月2日まで、
苦手な仕事をしなくてはならないので、日録、休みます。