裁判員裁判を語るときに

2009年10月26日

先週の日曜日に、裁判員裁判についての話を依頼されて話したことは、このブログでも触れた。その後もいろんなところで裁判員裁判のことが話題になる。こうして、司法に国民の視線が多く注がれることになったことはそれだけでも意味があると思える。しかし、裁判員裁判を語るときに、それまでの裁判がどうであったのか、その問題点を抜きにして裁判員裁判の是非を問うことは、本質を見誤る怖れがある。最高裁も法務省も国民の司法参加については最後まで大きな抵抗を示してきていた。しかし、立法がなされると前面にたってPR活動をしている。その活動の内容には、決して過去の裁判の反省はない。国民の司法参加はどうして必要なのかが本当はもっと話されるべきである。私は、裁判員制度の話をするときは、裁判員制度の説明だけではなく、そうした観点をいれた話をすることにしている。以下はそのレジュメである。

あなたも参加、裁判員裁判制度
                        2009.10.18
       弁護士 河田英正

1,裁判員裁判とは
選挙人名簿から無作為に抽選で選任された裁判員6人と裁判官3人によって審議される裁判。法定刑に無期、死刑を含む重罪犯罪が対象となる。強盗致傷、殺人、現住建造 物放火、集団強姦致死傷など

2,なぜ、裁判員裁判なのか
  死刑再審事件は4件(免田、財田川、松山、島田)
有罪率99,9パーセント、、、、よほどのことがない限り無罪はない。現実は有罪推定、裁判官にとって無罪判決は  勇気のいる行動
えん罪事件のすべてに自白の存在。えん罪の温床・代用監獄 調書裁判・人質司法、わかりにくい裁判

3,日弁連は長い間、陪審裁判を求めてきた
国民の司法参加
国民の司法参加は世界では当たり前、参審(ドイツなどの大陸法)・陪審(英米法)
裁判員制度は参審と陪審との中間的な制度
やっと実現した国民の司法参加の妥協的な仕組み

4,裁判員の役割
選ばれたその人の常識をもって裁判に参加、そのことに意味がある。法律家の99,9パーセントの有罪率の常識に  市民の常識で挑戦?
「疑わしきは、被告人の地益に」「合理的な疑いを容れない程度の立証」を有罪推定の目でなく、常識的感覚を大  切にして判断。

5,裁判員裁判によって刑事司法に大きな変化
調書に頼らない裁判が求められる。「人質司法」からの脱却?
自白に頼らない捜査、調査の任意性確保のための捜査の可視化。
進む検察官の証拠開示
誰が見てもわかりやすい裁判に

6,裁判員は辞退できる?
?年齢70歳以上、議会中の地方公共団体議会議員、学校教育法に定める学生又は生徒、過去5年以内に裁判員または補充裁判員の職にあった者
?重い疾病、傷害、日常生活を営むのに支障のある同居の親族に対して介護・養育の必 要のある者、父母の葬式など社会生活上重要な用務であって期日の変更が困難な用務、 その他従事する事業で重要な用務があって、自らこれを処理しなければ著しい損害が生 じるおそれがある場合。
?思想、信条、信仰上の事由によって辞退ができるか
  原則として不可
  裁判員としての職務を行うことがその思想信条に反する場合において、そのために精  神的な矛盾や葛藤を抱   え、職務を行うことが困難な程度に達するときはやむをえない  事情として辞退を認める(法務省説明)。

7,裁判は「裁き」か
・「人を裁くな。あなたがたも裁かれないようにするためである。あなたがたは,自分の裁く裁きで裁かれ,自分の量る秤で量り与えられる。あなたは,兄弟の目にあるおが屑は見えるのに,なぜ自分の目の中の丸太に気づかないのか。……」マタイ7・1〜6
「人を裁くな。そうすれば,あなたがたも裁かれることがない。人を罪人と決めるな。そうすれば,あなたがたも罪人だと決められることがない。赦しなさい。そうすればあなたがたも赦される。……」ルカ6・37〜42

 ?刑事裁判は「裁き」か。神の「裁き」と「裁判」とは異なることは自明の理。しか  し、死刑は「裁き」か?
 ?刑罰の本質 法哲学的には教育刑と応報刑との論争。
 ?裁判の意味 不完全な人間が社会を形成し、維持していくための必要な社会制度
 ?刑事裁判の本義
 疑わしきは、被告人の利益に  合理的な疑いを容れない程度の立証がなきかぎり無罪。犯罪者を無罪とすることがあっても一人のえん罪者もださないように、、、。(cf、神の裁きは一人のえん罪もないし、一人も免れることはない) 

さあ、裁判員裁判に参加!
  あなたは国民として政治参加のために選挙権を行使します。この国を支えるために税金を支払います。この国の司法が私たちのものであるために、私たちの常識を司法に反映させるために裁判員に選ばれたら、ちょっと面倒でも積極的に参加してもらいたいものです。

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