「被疑者ノート」

2008年9月28日

離婚成立後に,慰謝料請求とか,養育費の請求とか新たな問題を抱えている相談を今日は2件受けた。金曜日には,離婚が成立した後に,離婚の原因は,配偶者と交際していた第三者に責任があるという事件について弁論準備手続きがあった。こうした種類の相談が増加しているように思われる。よくあるパターンのようであっても,それぞれ事情は異なり,事案にほとんど共通性はない。離婚という大きな問題を処理した後のことであり,それだけに当事者にとっては妥協が難しい。なかなか終着駅を見つけることが困難な種類の事件である。

今日の午後は,逮捕以来,否認が続いている事件の接見にいってきた。接見室で遮蔽版越しに話をするのであるが,被疑者は意外と元気であったので安心した。この被疑者には「被疑者ノート」を差し入れている。このノートは岡山弁護士会で編集,作成したものである。毎日の調べの状況,調書を作成したか否かなどを細かく日記のように記載できるようにしている。逮捕されたときの心構えとか,黙秘権などの権利の説明なども分かりやすく書かれている。接見するときは,被疑者にこれを接見室に持ってきてもらって,その記載内容に基づいて調べの状況を確認するのである。このノートには,被疑者の権利の内容について理解しやすく説明されている。被疑者はこのノートを記載する作業によって,調べの状況を客観的に認識できる。弁護士の接見とともに,頭の中を整理し,落ち着いた対応ができるようである。さらに,これを毎日記載していることが,捜査官にはプレッシャーを与え,脅迫的な調べをすることのブレーキになっているようでもある。弁護士とのやりとりを記載したものなので,秘密も守られることになっている。捜査の全面的な可視化がなされない場合には,このノートの持つ意義は限りなく大きい。捜査機関によって,任意性のない自白調書が取られないようにして,えん罪の可能性を少しでもなくしていく材料としては,今のところかなり有益なものとして作用しているように見える。また、公判が始まったときのも、全面的な証拠開示制度のないなかで、隠されている検察官手持ち証拠を確認するにも役立つものである。

えん罪事件の多くの原因が、逮捕から起訴に至るまでの留置施設で作成される自白調書によるものである。「被疑者ノート」は、身柄を拘束された被疑者の権利を守り、その自白調書が適正に作成されることに寄与するものとなって、ひいてはえん罪事件の発生を抑制する力となりうる。実は、私は今回初めて使ったが、その効果は十分にあると思われた。

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